子育ての途中に、立ち止まる場所を。猪熊真理子さんと考えた「卒○会」の価値
子どもの成長は祝われても、その隣で走り続けてきた母自身が立ち止まる機会は、ほとんどありません。大分で3回開催してきた「卒○会」の価値を、参加者アンケートと座談会、そして女性支援と心理学の専門家・猪熊真理子さんへの取材から、改めて考えました。
三回開催した今だから問い直したかったこと
大分のママ集まれ!では、子どもの成長とともに歩んできたママ自身の節目を振り返り、次の一歩への勇気とする場として、「卒○会」を3回開催してきました。
今年度は振り返りの一年とし、これまで参加してくださった方へのアンケートと、少人数の座談会を実施しました。開催を重ねるうちに、私たち自身が「今年も開催すること」を目的にしてしまわないためです。卒○会は、参加したママたちに何を届けてきたのか。これからも大切にすべきものは何なのか。立ち止まり、参加者の皆さんと一緒に考える年にしました。
アンケートと座談会から見えてきたのは、「承認」と「つながり」という二つの言葉でした。そこで、第2回卒○会で心理学セミナーの講師を務めてくださった猪熊真理子さんに、女性支援と心理学の視点からお話を伺いました。

子育ては続いていくから自分の変化に気づきにくい
猪熊さんが最初に話してくれたのは、子育ての「連続性」でした。子どもは毎日少しずつ成長し、親もまた、毎日少しずつ経験を重ねています。でも、日々の暮らしの中では、その変化を改めて振り返る機会がありません。
「子育ては連続的だから、立ち止まらないと気づけないことがある。」
猪熊真理子さん
子どもの健診など、子どもの成長を確認する機会はあります。一方で、「親になってから、私はどんな時間を歩んできたのだろう」「何に悩み、何を乗り越えてきたのだろう」と、母自身を振り返る機会は多くありません。
卒○会は、母が立ち止まり、次へ向かう自分を振り返る「階段の踊り場」のような場所です。自分自身や親子の関係を振り返ることで、普段は見えなかった頑張りや変化に気づくことができます。
承認は褒めてもらうことだけではない
座談会では、卒○会内のセミナーを通して「自分の子育ては間違いではなかったと思えた」という声や、卒○証を受け取ったことで「人から頑張りを認めてもらえた」と感じたという声がありました。
猪熊さんによると、承認には、周囲から認めてもらう「他者承認」と、自分で自分を認める「自己承認」があります。そして承認とは、何かを完璧にできた人だけを褒めることではありません。家が片づいていない日も、思うようにできなかった日も含めて、毎日を生き、家族と向き合ってきた過程に価値を見いだすことです。
家事や子育てには、仕事のような人事評価も、成果に応じた給与もありません。していないことは目につきやすくても、毎日していることには「ありがとう」と言われないこともあります。その中で、自分の頑張りを自分だけで認めるのは、思っている以上に難しいことなのかもしれません。
人とのつながりが自分を見る鏡になる
ここで、「つながり」が大切になります。
「自分だけでは無価値に思えたことが、他者を通して自分に返ってくる。」
猪熊真理子さん
同じように悩んできた人の話を聞き、「あなたも頑張ってきたんだね」と思う。その言葉は、やがて「それなら私も頑張ってきたのかもしれない」と、自分自身へ返ってきます。
また、「そんなふうに感じていたのは私だけではなかった」と分かるだけで、心が少し緩むこともあります。つながりは、単に知り合いを増やすことではありません。他者との関係を通して、自分の経験を見つめ直し、孤独をほどいていくことでもあるのです。

卒○会は子育てという階段の踊り場
「卒○会は、子育てという階段の踊り場のような場所。」 — 猪熊真理子さん
子育てという階段は、その先も続いていきます。踊り場がなければ、ずっと登り続けなければなりません。けれど途中でいったん立ち止まり、休み、「ここまで登ってきたな」と振り返ることができれば、また次の階段へ向かう力が生まれます。
卒○会は、母だけを切り離して祝う場でも、友人同士で楽しく過ごすだけの場でもありません。子どもの成長の節目に、母自身もこれまでの子育てを振り返り、次の時間へ向かうための場です。
孤独から心の社会参画へ
取材の中で、猪熊さんから「心の社会参画」という言葉が生まれました。
「孤独な心が社会へ一歩参画する。その第一歩になっているはずです。」
猪熊真理子さん
社会参加というと、働くこと、起業すること、地域活動やボランティアを始めることなど、目に見える行動を思い浮かべがちです。けれど、その前には、「自分だけが取り残されている」という孤独な状態から、誰かと気持ちを分かち合い、自分も社会の中にいると感じる段階があります。
誰かの頑張りを認め、自分も認められ、人とつながる。卒○会には、心が社会との接点を取り戻す入口としての価値があるのではないか。これは、今回の取材で新たに見えてきた、卒○会の大切な可能性です。
次の一歩は外で何かを始めることだけではない
私たちはこれまで、卒○会で自分を認められた経験が、「次の一歩」につながってほしいと考えてきました。けれど今回、その一歩を、外から見える活動だけで捉えなくてよいことにも気づきました。
承認され、つながりを得て、心に少し余裕が生まれる。その力を持って家庭に帰り、子どもや家族と向き合うことも、その人にとって大切な次の一歩です。その先で、やってみたい人が地域活動や仕事へ向かうこともあるでしょう。
「もっと外へ」「もっと成長を」と求めるのではなく、一人ひとりが自分に合った次の一歩を選べる状態をつくること。それが卒○会の役割なのだと思います。

これからの卒○会
今年度、大分では参加してくださった皆さんの声を聞き、卒○会の価値を問い直す年です。
佐賀でも、地域のママたちの声をもとに、佐賀らしい卒○会づくりが始まっています。母自身が立ち止まり、これまでを認め、人とつながれることは、大分でも佐賀でも大切にしていきたい核です。
「5年、10年続いた時に、女性たちの人生の景色がどう変わっているか。」
猪熊真理子さん
今すぐ大きな変化が見えなくても、節目で一度立ち止まった経験や、誰かとつながった記憶が、数年後の自分を支えることがあるかもしれません。これからも参加者の皆さんと一緒に、卒○会の価値を確かめ、育てていきたいと思います。

(写真中央が猪熊さん。左右が大分のママ集まれ!スタッフの安田・三又、佐賀のママ集まれ!スタッフの草場もオンラインで取材に参加しました)
猪熊真理子さんプロフィール

猪熊真理子さん
株式会社OMOYA代表取締役社長、女子未来大学ファウンダー。東京女子大学で心理学を学び、認定心理士の資格を取得。女性のキャリアや心理的な支援活動に取り組む。第2回卒○会では、心理学セミナーの講師を務めていただきました。
株式会社OMOYA 公式プロフィール

